
【起業の原点】貧困から這い上がった幼少期体験
今の私を見て、恵まれた環境で育ったと思う方もいるかもしれません。決してそんなことはなく、仙台出身の私は、家庭的に恵まれない環境で育ったのです。
親は施設出身で、親が家にいなかったりして、親からご飯を食べさせてもらった記憶もありません。小学校の頃からお金がない生活が続いていました。
そんな中で、テレビで見る東京のきらびやかな世界に憧れを抱くようになりました。
「東京に出たら何か人生が変わるんじゃないか」「社長になったら何か変わるんじゃないか」
そう考えるようになり、小学校の頃から「上京して社長になる」という目標を決めていました。
【美容師を目指すきっかけ】人生を変えた運命の出会い
中学校に入ってから、私の人生を大きく変える出会いがありました。それは一人の女性美容師さんとの出会いです。
私は生まれつき癖毛で、中学校に入ってから急に癖がひどくなり、パパイヤ鈴木さんのようなアフロのような状態になってしまいました。思春期ということもあり、髪の毛が大きなコンプレックスとなり、人生が嫌だと感じながら、いつも下を向いて歩いていました。
ある時、その女性美容師さんに出会い、髪を長く伸ばしていた私の髪をズバッと短髪に切ってもらいました。地元に帰ると、周りの人たちから「すごくいいね」と言われ、その瞬間に気づいたのです。
「こんなふうに人の人生を変えることができるんだ」と。
その美容師さんのように、自分も人の人生を変えられる存在になりたい。お客様にとっても、関わるスタッフにとっても、そういう存在になりたいと強く思い、美容師を目指すことを決めました。
【修行時代の苦労】東京での厳しいスタートと下積み経験
専門学校を卒業後、東京の大手美容室にアシスタントとして入社しました。しかし、現実は厳しいものでした。奨学金で専門学校に通い、友達から2万円で車を買って、その車で東京に引っ越し。3〜4畳ほどの部屋に住み、1週間で500円しかないような生活でした。
美容師の給料も当時は非常に安く、10数万円程度。帰る場所もないし、やるしかない状況でした。まさに馬車馬のように働くしかありませんでした。
大手サロンでは立ち上げ専門のアシスタントとして、埼玉や鹿児島など各地の新店舗に派遣され、3ヶ月ずつ滞在してシステムを地元スタッフに教える仕事をしていました。海外ブランドのインストラクター試験に合格したものの、会社が契約してくれず、5年後に先輩が独立したサロンに移籍しました。
【独立開業の決意】31歳で踏み出した起業への第一歩
31歳の時、ついに独立を果たしました。私にとって起業はゴールではなく、スタートでした。小学校・中学校の頃から考えていたのは、起業することだけではなく、起業してから何をしたいかということ。
商品開発、海外展開、美容室だけでなく飲食店など様々な業種への挑戦を考えていました。美容師という職種を軍資金やベースにして、どのように発展させていくかを常に考えていたのです。
【経営理念の確立】ワールドツリーという独自の世界観とブランドコンセプト
会社名に込めた「ワールドツリー」には深い意味があります。
神話にも登場するワールドツリーは、枝が様々な世界に分かれており、その枝の花や葉っぱがそれぞれの世界を彩っています。やがてそれらは枯れて地面に落ち、土に還って根から吸収され、また新しい枝となって新しい世界を彩っていく。そんな循環する世界観を作りたいと思ったのです。
私の人生観の核にあるのは「今ある不可能を可能にする」ということです。
これは厳しい幼少期の体験から生まれたもので、今できないことをいかに可能にしていくか、それを常に追求し続けることで前に進んでいこうという考えです。
【差別化戦略】圧倒的独創性で実現する美容室の革新的サービス
当社が大切にしているのは圧倒的独創性と圧倒的没入感です。
商売をするうえで差別化が大事とよく言われますし、ほかの美容室と競合他社になった瞬間、消耗戦や価格競争が始まります。
しかし圧倒的独創性は、他が追随できないような一点突破、自分たちにしかできない表現です。これにより価格を安くする必要がなくなります。
一店舗目の「ANell(エネル)」は、朝露から朝日が昇り、夜になって潤うという24時間を体験できるサロンです。朝から夕焼け、夜から朝焼けまでの空間変化を通じて、来店するたびに五感が変わる仕組みになっています。
二店舗目の「HOROS(ホロス)」では、プロジェクションマッピングを使い、お客様が「水中に行きたい」と言えば水中の世界に、「森に行きたい」と言えば森の中に入れるような空間を提供しています。毎週行っても全て変わる、完全にカスタマイズされた体験を創造しています。
三店舗目の「OmShantiSオムシャンティス)では、心を浄化し洗練に導く聖なる空間を提供しています。様々な世界の恵みを吸い上げる根から世界樹の幹に集約され、浄化・洗練し新たな世界へと枝を伸ばす世界観をイメージしています。
これらの店舗は髪だけではなく、トータルで身体をメンテナンスできるように鍼灸なども取り入れています。
【経営危機からの脱却】開業初期の集客ゼロから復活した転機となる出会い
独立当初は非常に厳しい状況でした。ホットペッパーで高額なプランをかけたにも関わらず、新規客がほぼゼロ。手持ち資金もなくなり、あと1〜2ヶ月で潰れると思った時期がありました。
そんな時、ある予約システム会社の営業の方が飛び込みで来たんです。その方は私たちの状況を見て、「こんな良いお店なのになぜお客さんが来ないのか」と言い、無償でホームページやホットペッパーの内容を朝から夜まで何日間もかけて作り直してくれました。その結果、翌月からお客様がドーンと来るようになったのです。
同じ時期に、イタリアのブランドの商品のインストラクターの方も飛び込み営業で来たんです。その方は商品を2週間無償で使わせてくれ、細かい世界観の表現方法まで指導してくれました。
「自分たちのあり方をちゃんとした方がいい」「どんなに気持ちがこもっていても、伝わり方が悪いと安く見られてしまう」という厳しくも的確なアドバイスをいただきました。
【組織づくりの秘訣】右腕となる人材との出会いが変えた会社の未来
会社の未来が見えたのは、現在の右腕となるスタッフが入社してからです。その人は入社したばかりの時に居酒屋で話した際、こう言いました。
「目の前のお客様を喜ばせることはできるかもしれないけれど、世の中にはもっといろんな困っている人たちがいる。その人たちに私たちの声を届けることができる会社なんじゃないですか。私たちのあるべき姿を示すべきなんじゃないですか。不可能を可能にするということをやるべきなんじゃないですか」
この言葉で未来が見えました。
この人で失敗するなら、自分でやっても失敗すると思い、この人を信じてやってみようと決めたのです。そこから会社が一気に変わりました。
【コロナ危機対応】逆境をチャンスに変えた自己投資とスキルアップ戦略
コロナでゴーストタウン化した時期、多くの店が休業を考える中、お客様からアドバイスをいただきました。
「いつも忙しい状態で走り続けているあなたたちが、今暇になっている。この時こそ、朝から夜まで24時間フルで自分たちだけのために学べる時間に使えるんじゃないの」
この言葉をきっかけに、コロナ期間中は本当に早朝から日付が変わるまで、全員で毎日休みなしで練習を続けました。全員が変わり、今の自分たちになることができました。
現在、主力メンバーはほぼ休みがない状態ですが、プライベートと仕事という概念がもうありません。自分の人生として捉え、人生の中で何を得るか、どういう豊かさを取るか、将来どういうあり方をしたいかを考えた上で行動しています。
【美容師の在り方論】アーティストとしての職業観と創造性
私は美容師をアーティストだと考えています。技術の習得、構造上の知識、哲学、デザインセンス、時代性、感受性やニュアンス、そして自分の心の中を表現すること。これら全てを兼ね備えているのがアーティストです。
多くの若い美容師は「6時まで働けばいい、6時からは仕事じゃない、練習しなくていい」と考えがちです。しかし、アーティストとして考えれば、そうではありません。好きだからやる、苦痛で飲みに行く人はいないのと同じで、仕事が好きな人にとって、なぜ仕事をしてはいけないのでしょうか。
【マーケティング戦略の転換】広告廃止で目指すプレミアムブランド化
現在、私たちは広告を全廃止しました。ホットペッパーも一斉廃止し、顧客からの紹介のみを受け付けています。Chrome Hearts(クロムハーツ)のように、広告をしないで価値が上がっていくブランドを目指しています。
また、海外展開も本格的に始まり、ユーラシア大陸全土に広がりそうな状況です。インドでは政府認定雑誌の表紙を飾ることもできました。
さらに、美容機器の製造も始め、脱毛機や高周波・低周波を流す機械などをオーダーメイドで作れるようになりました。これらの各事業がマネタイズできるようになったら、スタッフに譲っています。
【事業拡大ビジョン】10年100事業計画と次世代への事業承継戦略
私たちの目標は「10年で100事業」です。同じサロンを作るのではなく、常に新しい業種に挑戦することで、常に新しい世界に触れていたいのです。100事業を達成した時に見える世界観や視界が、自分の中に何か芽生えるのではないかと考えています。
100事業の中の1事業を各スタッフに全部譲り、全員を法人化させる予定です。将来的に老後まで面倒を見たいと思っています。そして100事業達成の瞬間に、1事業1円で全部売りたいと考えています。その頃には自分もお金のことを気にしておらず、次のことをやろうとなっているはずです。
【経営者の心構え】「なぜ壊れないのか」継続力の源泉
よく「なぜそんなにやって壊れないのか」と聞かれますが、壊れても壊れなくても、時間が経っても、根本が改善されなかったらずっと同じです。だからやるしかない。スタッフも皆、同じ気持ちだと思います。
肩を脱臼した翌日も打ち合わせや交流会に出ていましたし、救急車で運ばれた次の日も普通に営業していました。やるしかないからです。
【今後の展望】世界に向けて発信する新しい美容業界の未来像
私たちが目指しているのは、ワールドツリーたるべきツリーになることです。すべてを円で回して彩っていく。自分たちの想いを認めさせようということではなく、ともに歩いていきたいという人たちをウェルカムし、自分たちの神髄がどこにあるかというあり方を、世界の人たちに届けたいと思っています。
美容師が創造性を見失いかけている今、私たちは常に「不可能を可能にする」挑戦を続けています。スタッフ一人ひとりが自分の人生として事業に取り組み、お互いが成長し支え合う文化を大切にしています。
まだ誰も見たことのない100事業の先にある世界を見るために、私たちの挑戦は続いています。それが私たちワールドツリーの使命であり、描く未来なのです。
World Tree株式会社 SHANDORA JAPAN株式会社代表取締役 川村正人
会社HP https://www.worldtree-japan.com/
















