古式建築と最新技術の融合で「断られた夢」を叶える 親の倒産から這い上がった大工の挑戦 株式会社建明 代表取締役社長 望月聡志 

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失うものがあったからこそ見えた道

私が建築の世界に足を踏み入れたのは、16歳のときです。実家が建築業を営んでいたため、成り行きで大工の道に進んだのです。当初は、大工の仕事が好きでも嫌いでもない状態で、親のすねをかじりながら一緒に仕事をしていました。

人生の転機は、実家の倒産でした。住み慣れた小美玉市から、つくば市へと引っ越すことになり、文字通り何もかもを失いました。遊び仲間とも離ればなれになり、結婚という人生の節目とも重なって、本当に仕事しかやることがなくなった状況に追い込まれたのです。

19歳頃、様々な辛い出来事があり、「人を見返してやろう」という強い想いが芽生えました。この仕事しかない以上、大工を極めるしかない。そう決心した瞬間が、私の本当のスタート地点だったと思います。

その後、建設業許可の取得に向けて10年間努力を続けました。中卒だった私には7年の実務経験が必要で、さらに国家資格と500万円の資本金が条件でした。特に実務経験の証明が困難で、大手企業の下請けは認められず、個人との直接取引で100万円以上の案件を継続的に行う必要がありました。30歳でようやく建設業許可を取得し、自分のブランドで勝負できる土台を築くことができたのです。

古きと新しきの融合で生まれる唯一無二の価値

建明の特徴は、古式建築法と現代建築技術の融合です。多くの建築会社は古いものを扱う会社と最先端技術を扱う会社に二分されがちですが、私たちは両方を組み合わせることができます。

事例として、明治時代からの古民家に住んでいたお客様の事例があります。「母屋の古い材料を活かしながら、最先端のゼロエネルギーハウスを建てたい」という要望に、他社では「どちらかしかできない」と断られ続けた案件を、私たちが引き受けました。

私がどのようにこのような技術を身に着けたのか。それは3割が実家での経験、7割がYouTubeからです。20年前、YouTubeが登場した頃から海外の建築技術を学び、見たものをすぐに実践する「インプット→アウトプット」を繰り返してきました。大工の世界は固定概念が強く、昔から決まっているとされる技術が実は間違っていることも多々発見しました。「誰も信用できない」と思うほど、既存の常識を疑い続けてきたのです。

独学でSEO対策も身につけました。インターネット黎明期からパソコンをいじるのが好きで、情報収集に長けていました。「プロに頼まないとホームページで集客できない」という神話を疑い、無料のホームページ制作ツールで自社サイトを作成。結果的に、有料・無料に関係なく、お客様は本質的な価値を見て判断していることを実感しました。

建築物に宿る命を次世代へ

私の事業への想いでもある「建築物に命が宿る」という言葉は、古民家の仕事を通じて実感したことです。何代にもわたって受け継がれてきた家には、人の感情や想いが染み付いている。時にはポルターガイスト現象も起きるほど、家には魂が宿っているのです。

だからこそ、100年、300年先も美しい住まいを創りたい。そのために欠かせないのは、天然乾燥材の使用です。機械で強制乾燥させた木材は白蟻に食われやすく、劣化も早い。メインの構造部分には必ず天然乾燥材を使うことを守り続けています。

また、古代や中世の建築は、数学的ではなく感性を重視した自由な作り方をしていました。法隆寺や平等院鳳凰堂といった名建築は、その時代の技術の結晶です。現代建築のルーツは江戸時代にありますが、それ以前の技術を研究し、人の感性に任せたものづくりを現代に蘇らせることが私の使命だと考えています。

現代においては、環境への配慮も不可欠です。太陽光発電や蓄電池などの最新技術を古式建築に組み込み、ゼロエネルギー住宅に近づける取り組みを行っています。お客様からの要望に応える形で始まった取り組みですが、今では私たちの大きな強みになっています。

さらに、私の会社では、社員には自由に休めて、自分の都合で働ける環境を提供しています。ノルマではなく、「これくらいの仕事量をやれば帰っていい」という目標設定で、働きやすさを追求しています。また、独立を目指す人材の育成にも力を入れており、技術習得から独立後のサポートまで行っています。実力勝負の世界だからこそ、挑戦する人を応援したいのです。

問題解決のプロフェッショナル集団として

10年後、私が一番願っているのは「楽ができていること」です(笑)。今は本当にブラック社長と呼ばれるほど働いていますが、それも会社の強みを確立するためです。

「他の会社では断られたけれど、建明なら解決してくれた」と言っていただけることが、私たちの一番の誇りです。どこに相談しても「できない」と言われた案件を、私たちが引き受けて形にする。そんな会社として、もっと多くの方に知っていただきたいと思っています。

また、建築業界全体に切磋琢磨できる環境を作りたい。それぞれの会社が、その会社でしかできない技術を持ち、お互いに刺激し合いながら成長していける業界にしたいのです。

古いものを壊すのではなく、リノベーションや部分的な再利用でリサイクル・リユースしていく。そんな技術を持つ職人がもっと増えることを願っています。大量生産・マニュアル化された現代建築から、もう一度人の感性を大切にした建築へ。そんな変化を業界全体に起こしていきたいと考えています。

真の評価を得るために必要なこと

「周りから評価される人間になってください」

これは私が社員によく伝える言葉です。自分では頑張っているつもりでも、それが他人から評価されなければ意味がありません。特にものづくりの世界では、お客様のセンスを超える提案ができなければ生き残れません。

そのためには圧倒的な情報収集が必要です。YouTubeで海外の事例を学び、常に新しいものを吸収する。お客様の方が情報量が多い時代だからこそ、それを飛び越える努力が求められます。住宅センスは簡単に磨けません。どれだけ多くのものを見て、学んで、実践するかにかかっています。

また、私が大切にしている言葉は「心頭を滅却すれば火もまた涼し」です。辛くても、我慢してでも、やるしかない。本当に極めたいなら、適当にやっていてはその境地には絶対に到達できません。それ以外に道はないのです。

大工も本来は設計から施工まで全てを手がける職業でした。設計を描く人と家を作る人が分業されたのは近年のことです。作る人が設計もできる。これが一番良いやり方だと信じています。机上の空論ではなく、実際に作る技術と知識を持った人間が設計することで、本当に長持ちする美しい建築が生まれるのです。

最後に、これから何かを極めようとするなら、挫折や困難は必ず訪れます。しかし、それを乗り越えた時に見える景色は、きっと想像を超えるものになるはずです。私自身、実家の倒産という大きな挫折があったからこそ、今の建明があります。

建築を通じて、人の人生に関わらせていただく。これほど責任が重く、同時にやりがいのある仕事はありません。300年後でも感動を生む住まいを創り続けること。それが私の使命だと信じています。

株式会社建明
代表取締役社長 望月聡志
住所 〒300-2645 茨城県つくば市上郷2065-2
事業内容 建築工事業
【HP】https://kenmeicom.wixsite.com/kenmei-kenchiku-ie

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