40代管理職から起業へ。不安と迷いを超えて学んだ3つの信念 株式会社TOGA 代表取締役 児玉卓也

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転機となった44歳、組織での限界を感じて

16年間勤めた商社を退職し、起業を決意したのが44歳の時でした。

40歳を過ぎて管理職の立場になると、それまでとは評価の基準が大きく変わります。営業成績という明確な数字で評価されていた時代から、社内での上長との関係性が出世を左右する重要なウエイトを占めるようになる。これは組織の大小を問わず、どこでも同じ構造なのだと思います。

私の性格を良く言えば、軸をブレずに己の道を歩むタイプ。しかし悪く言えば、協調性に欠けるところがあったのかもしれません。盲目的に上長の指示に従って仕事をする、そんなスタイルを受け入れることなど、私にはとても出来ませんでした。納得できない指示には異議を唱える事と比例し、会社での居場所が徐々になくなっていくのは必然の流れでした。

「この会社で定年まで勤めるのは無理だ」

そう判断し、転職活動を始めようと考えていた矢先のことです。知り合いを通じて、とある韓国企業の社長から声をかけていただきました。日本で法人を立ち上げたい、日本市場での拡販を一緒に手伝ってほしい、頑張ってみないかと。これが、現在のビジネスを始めるきっかけとなったのです。

不安だらけのスタート、それでも踏み出した理由

お誘いを受けたものの、正直なところ不安要素しかありませんでした。

まず、私はずっと勤め人でしたから、起業する方法なんて何も知りません。会社設立の手続きはどうするのか、資金繰りはどうすればいいのか、税務や法務はどう対応すればいいのか。すべてが未知の世界でした。

次に、誘いを受けたビジネスも、これまで私が経験したことのない業界です。商社での経験はあっても、この分野については素人同然。ゼロからの学び直しが必要でした。

そして何より、扱う製品はメイドインコリア。日本国内での導入実績はまったくありませんでした。実績のない製品を、未経験の業界で、起業という形で展開する。こんな状況で「やってみよう」と思える人が、世の中にどれほどいるでしょうかね?

色々とモヤモヤが消えない日々が続きました。このまま安定した転職先を探した方がいいのではないか。家族のことを考えれば、リスクの少ない選択をすべきではないか。何度もそう考えました。

しかし、日本進出を熱望する韓国本社の社長の言葉が、私の心を動かしました。

「我々の製品は日本での実績が全くない。しかしこれはコモディティ製品ではない。研究者の安全と健康を守る製品なんだ。本当に良いものだと理解されれば、必ず日本でも受け入れられる。だから一緒に頑張ってほしい」

その情熱と信念に突き動かされ、右も左も全く分からないまま、2018年6月1日に起業したのです。

ゼロからのスタート、途方に暮れた日々

起業をしたと言っても、それは家で例えるなら建物の外観だけが出来上がって、電気もガスも水道も通っていない状態でした。

ユーザーはもちろんのこと、私たちの製品を売ってくれる代理店すら一社もありません。これまでの業界とは全く異なる分野ですし、私の出身はもともと関西。すでに居を構えていた茨城県つくば市で起業したものの、この地域での人脈や地縁が全くありませんでした。

「これからどうしたらいいんだろう?」

途方に暮れた日々を、今でも鮮明に記憶しています。朝目覚めると、重い不安が襲ってくる。本当にこの選択は正しかったのか。家族を養っていけるのか。そんな思いと毎日向き合っていました。

それでも、前に進むしかありませんでした。一件一件、足を使って営業をする。断られても、また次の扉を叩く。そんな地道な活動の繰り返しでした。

起業して得た、揺るぎない三つの信念

そうした苦しい日々の中で、私は三つの信念を得ました。これらは今も、私の行動の指針となっています。

一つ目は、自分を信じて、とにかく継続し、やり続けるということです。

結果がすぐに出なくても、諦めずに続ける。自分が選んだ道を信じて、一歩ずつ前進する。簡単なことではありませんでしたが、継続することでしか道は開けないのだと、身をもって学びました。

二つ目は、多くの人に助けていただいたことへの感謝と、必ず恩返しをする気持ちです。

起業当初、本当に多くの方々に助けていただきました。アドバイスをくださった方、最初の顧客になってくださった方、代理店として手を挙げてくださった方。そうした一人ひとりのご支援なしに、今の私はありません。この感謝の気持ちを忘れず、いつか必ず恩返しをしたい。そう強く思っています。

三つ目は、自社製品への愛着・誇り・責任です。

私たちの製品は、研究室で発生する有害ガスを高性能かつ機能的に徹底除去するフィルターを搭載した設備です。韓国で開発・製造され、日本国内へ展開しています。

この製品の意義を、私は日々実感しています。私たちの日常生活が便利で快適なものになっているのは、日夜実験に励む研究者の皆さんのおかげです。その研究者の方々が、健康の心配なく安全に業務を遂行できるよう、私たちの製品が一役を担っている。そう言っていただけることが、この仕事の最大の使命であり、喜びなのです。

製品に対する誇りを持ち、お客様に対して責任を持つ。それが私たちの原点です。

業績拡大のための会社としての取り組み

起業から7年が経過した今、私たちは次のステージへと進むべく、いくつかの重点課題に取り組んでいます。

まず、安定的な品質・納期・アフターフォロー対応の徹底です。

どんなに良い製品でも、品質が安定していなければ信頼は得られません。納期を守ること、そして導入後のアフターフォローをしっかりと行うこと。これらは当たり前のことのようでいて、継続して実現するのは容易ではありません。しかし、これこそが顧客との長期的な信頼関係を築く基盤なのです。

次に、社員の定着です。

上記のような高い品質とサービスを実現するためには、何よりも人材が重要です。経験を積んだ社員が安心して働き続けられる環境を整えること。それが会社としての持続的な成長につながります。

そして、当社の営業スタイルを認めてくれる企業との協業です。

私たちは短期的な利益を追求するのではなく、お客様の真のニーズに寄り添い、長期的な関係を築くことを大切にしています。同じ価値観を共有できるパートナー企業との協業を進めることで、より大きな価値を提供できると考えています。

私自身の取り組み、そして未来へ

会社としての取り組みとは別に、経営者として私自身が意識している三つのことがあります。

一つ目は、心身ともに健康体を維持することです。

経営者が倒れてしまっては、会社も社員も守れません。適度な運動を心がけ、十分な睡眠をとる。当たり前のことですが、これを継続することが何よりも重要だと感じています。

二つ目は、後継者の育成です。

会社を永続的に発展させるためには、次の世代にバトンを渡す準備が必要です。若い社員たちに経験を積んでもらい、責任ある立場を任せていく。そうした育成の仕組みづくりに、今から取り組んでいます。

三つ目は、常に感謝の念を持ってユーザー様との面会を実施することです。

お客様との出会い一つひとつに感謝し、誠実に向き合う。そうした姿勢は、不思議なことに運気の向上にも自ずと直結するものだと実感しています。

夢が現実になる今、感じること

人間は誰しも、何らかの使命を持って生まれてきている。私はそう信じています。

日韓の関係は、ここ数年で双方が好印象を持てる時代になってきていると実感しています。当社製品の日本市場での拡販が進み、売上が拡大し、GTSCIENの知名度も向上する。7年前に韓国の社長と交わした約束が、手に届く状態にまで来ています。

夢が現実になろうとしている今を実感しながら、私は日本全国を飛び回っています。北は北海道から南は九州まで、研究機関や企業を訪問し、私たちの製品の価値をお伝えする日々です。

これからも、多くの人が私の周りに自然と集まっていただけるような、そんな波動を持ち続けられるよう努力したいと思っています。日々感謝の念を持って、一日一日を大切に、公私ともに充実した生活を送りたい。そう心から願っています。

44歳での起業は、もしかしたら無謀と思われる方もいることでしょう。しかし、それまでの経験があったからこそ踏み出せた一歩でもありました。これからも初心を忘れず、お客様、パートナー企業、そして社員とともに、さらなる成長を目指していきます。

会社名:株式会社TOGA   代表取締役 児玉卓也  

事業内容:研究所等で発生する有害ガス・悪臭除去の装置販売  

設立年:2018年  

従業員数:3人  

会社HP: https://toga-lab.jp/

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