29歳で6法人経営『福祉業界の利益構造改革へ挑む』工賃を全国平均の約2倍にした経営者の革命論 株式会社Wingrin代表取締役 藤根羽矢人

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「人に使われるのが嫌だった」から始まった経営者への道

「人に使われるのが嫌」—この想いを、駒沢大学法学部在学中から抱いていたから起業しました。特別な志があったわけでも、立派な理念があったわけでもありません。ただ純粋に、自分の人生を他人にコントロールされることに抵抗を感じていたのです。

大学3年で単位を取り終え、4年生の時は一度も大学に足を向けることなく、アルバイトと遊びに明け暮れていました。周りからは「お前は社会人になったら、いつか大きな壁にぶつかるよ」と散々言われましたが、今振り返ってみても、その大きな壁というものにまだ出会っていません。

就職活動では、やりたい仕事が特になかったため、就職サイトからオファーをもらった企業だけを受けました。5、6社受けて3社から内定をいただき、その中で一番給料が高かったキーエンスグループに入社したのです。

キーエンスグループ営業全社1位の売れる営業術

キーエンスグループという会社を知ったのは、実はオファーを受けたときです。今でこそ一般的に「すごい会社」として認知されていますが、当時の私にとってはただの高給取りの会社でしかありませんでした。

営業職に就いたのも、周りから「話すのが上手だね」「壊れたラジオみたいに一方的に話し続けられるね」と言われていたからです。一般的な営業論では「ヒアリングが大切」「お客様の話を聞くことが仕事」と言われますが、私はその真逆でした。ひたすら話し続ける営業スタイルだったのです。

例えば、ある商品を売る時、「欲しいか、欲しくないか」という質問を最後にします。「どちらかといえば欲しいけど……」と言わせたら、もう勝ちです。

人間は自分で発した言葉を否定したくない生き物だからです。そこから「買えない理由」ではなく「どうやって買えるのか」を一緒に考える営業をしていました。

結果的に、新卒1年目の下半期からルーキーランキングで1位を取り、2年目の下半期では全社1位を獲得しました。しかし先輩たちからは「お前の営業の仕方は誰も真似できないから、参考にならない」と言われていました。

福祉業界を戦略的に選んだ理由—AI時代に生き残るビジネス

福祉業界への参入は、実はキーエンスグループ時代から戦略的に決めていました。将来的にAI化やDX化が進む中で、「なくなりづらい業界」「機械に置き換えづらいビジネス」として福祉業界に注目していたのです

高齢者介護であれば、お風呂介助や食事介助など、ある程度機械で代用できる部分が出てくるかもしれません。しかし、障害者支援は違います。同じ病名でも、10人いれば10通りの症例があり、正解・不正解が感覚で変わってくるため、AI化が困難だと考えていました。

業界に飛び込んでからは、右も左も分からない状態で、とにかく現場レベルで学びました。もともと勉強が嫌いなので、事前の勉強は一切せず、日々現場で同業者の方々や職員の方々に教えてもらいながら、少しずつ理解を深めていきました。

福祉業界の闇を目の当たりにした現実

福祉業界に入って見えてきたのは、綺麗な部分と汚い部分が混在する現実でした。世間では「大変な仕事ですね」と言われることが多い一方で、虐待や不正受給といったニュースになるような問題になっていることはみなさんもご存知でしょう。私が知っているだけでも、身近な施設で毎日のように不正受給や虐待が起きています。

この業界の最大の問題は、30~40年という歴史の浅さにあります。最初に決まったルールがそのまま「よし」とされ続け、時代に合わない部分があっても疑問を抱く人が少ないのです。まるで戦後GHQが作った憲法が今でも使われているような状況が、小さな社会である福祉業界でも起こっています。

現場レベルでは改善したいと思っていても、ルールを決めている管理側との間にミスマッチがあり、そこに政治が介入してくるため、誰も発信しない、そもそも疑問に思わない人が多いのが現状です。

私が貫く経営哲学「最高のサービスは、利益からしか生まれない」

業界内では「利益追求は悪だ」という風潮があります。しかし私は、そのレベルの低さに呆れています。利益を追求して何が悪いのでしょうか。

利益が出なければ職員の待遇は上がりません。職員の待遇が上がらなければ、サービスの質が下がる可能性があります。虐待と不正受給で認可取り消しになった施設の事例があります。家族経営で仕事をしないで遊んでる息子が高給を取っているのに、他の職員の給料が低く、不満が溜まって内部告発につながりました。待遇が上がらなければ、職員の不満が溜まり、サービスの質が落ちる。これは火を見るより明らかです。

そもそも、私たちの給料の出どころを考えてみてください。税金です。つまり、日本という国で出た利益から支払われているのです。日本を牽引する大手自動車メーカーは福祉サービスを提供していませんが、法人税を通じて福祉を支えています。私たちが利益を出すということは、税金を納めて社会に還元するということでもあります。

利益が出ないということは、サービス提供の質の低下につながるだけでなく、そもそも事業所を守ることもできません。私たちを選んで来てくれている利用者を路頭に迷わせることになるのです。

茨城障がい支援協議会設立で業界横断連携を実現

業界の横のつながりを作るため、私は茨城障がい支援協議会を発足メンバーの一人となり今でも理事を務め、現在約30の法人に加盟していただいています。一人の障害者を支援するには、私たちのような日中活動事業所だけでは不十分です。住む場所はグループホーム、サービスをつなぐ相談支援員など、複数の法人が関わります。

私たちが適切な支援をしていても、グループホームで適切でない支援が行われていれば、その人を支援していることにはなりません。

事業者間での情報共有が適切に行われていなければ、虐待に気づけないかもしれないし、逆に適切な指導を虐待と騒いでしまう可能性もあります。どちらにしてもマイナスの要素しかないため、地域全体での支援体制を作る必要があると考えています。

自社製品開発で利用者工賃を全国平均以上に引き上げた方法

現在、私たちはフルーツ大福、干し芋、化粧品などの自社製品開発を行っています。これには利用者の工賃向上という明確な目的があります。

全国の就労継続支援B型事業所の平均工賃は月2万3000円です。これでは生活できません。なぜこんなことが起きるかというと、付加価値の高い仕事ができないからです。しかし、これは利用者ができないのではなく、事業所側が提供できていないだけだと私は考えています。

実際、私たちの事業所では平均工賃3万7000円を実現しています。まだ十分ではありませんが、全国平均以上です。

多くの人が知らないうちに、障害者が作ったものにお金を払っています。手持ち花火のセロハンテープ貼り、誰もが手にしたことのある大手メーカーのボールペンの梱包など、身近な商品の多くを障害者施設で作っています。しかし、大手メーカーから直接依頼が来るのではなく、何次にもわたる下請け構造の末端に障害者施設が位置づけられているため、単価が極めて安くなってしまうのです。

この30~40年の歴史の中で、私たち福祉業界は安売りをしすぎました。そこにメスを入れなければなりません。

私は現在29歳で、6法人を運営し、茨城県内で150人程度の障害者の方に私たちの施設を選んでいただいています。すべての施設で8割以上の稼働率を維持しているのは、私たちのアプローチが間違っていないことの証明だと考えています。

障害者支援で色眼鏡を外した真の平等な関係性

私たちの経営理念は「人から学び、人に伝え、共に成長していく」です。この「人」の中には、障害者も高齢者も、年齢も問わず、すべての人が含まれます。

私の事業所の職員は皆、「知的障害のAくん」ではなく、「Aくんがたまたま知的障害を持っている」という捉え方をしています。実際、障害者の方から学ぶこともたくさんあります。しかし、日々支援をしていると、支援者が色眼鏡で見てしまうことが本当に多いのです。

私たちは自社製品を販売する際、「障害者施設」であることをあまり前面に出しません。同情で購入されるのも嫌ですし、「障害者が作っているなら嫌だ」と思われるのも嫌だからです。レッテルで商品を判断されたくないのです。

商品の価値は、誰が作ったかではなく、その商品自体にあるべきです。障害者が作ったからといって価値が下がることは全くありません。

2030年衣食住完全提供を目指す福祉業界の包括的サポート戦略

私は2030年までに、衣食住すべてを提供できる体制を整えたいと考えています。現在、福祉、アパレル、飲食の3つの事業を展開していますが、住の部分でグループホーム建設を構想しています。

また、生活介護(重度)→就労継続支援B型(軽度)→A型(さらに軽度)→一般企業という段階的なステップアップ支援をすべて網羅しています。これは障害を持つ方の保護者に対する安心感にもつながります。なぜなら、私たちを選んでいただければ、人生を通してサポートしますと言えるようになりたいからです。

福祉事業の海外展開—笑顔で世界を変える構想

将来的には海外展開も視野に入れています。近隣の韓国でも福祉施設が足りていない状況があります。私たちの会社名「Wingrin」の「grin」には「歯を見せる(笑顔)」という意味があります。笑顔は万国共通だと思うのです。

楽しかったという感情を文字で表現することはできても、本当に楽しかったかは分かりません。しかし、こぼれ出る笑顔や涙といった感情表現は、その瞬間の本当の気持ちが反映されます。笑顔にしていくことは、国が違っても変わらない私たちのミッションです。

「人生はゲーム」マインドセット術

私は人生をゲームだと考えています。もう一人の自分がコントローラーを持って、この自分を操作している感覚です。何か困難なことがあった時、「今こうしておいた方が後の攻略が楽だよね」と客観視できます。

失敗した時は「人生のゲームは何度でもやり直しが利く」と考えます。リセットボタンを押して、0からスタートすればいいのです。この考え方により、失敗を恐れることがなくなりました。

AとBという選択肢があって、悩んで悩んで正解を導き出すより、即断してBを選んで失敗し、すぐにAに戻る方が経験値が高いと思っています。失敗は成功のもとと言いますが、それを実践する人は少ないのが現実です。

「口で言うやつが8割、行動に移せるやつは2割、継続できるやつは1割未満」これはキーエンスグループ時代に言われた言葉ですが、まさにその通りだと思います。私は決めたことを確実に実行するため、できなかった場合の「罰」も自分に課しています。例えば、期限までに終わらなければ楽しみにしていた食事に行けないように、あらかじめ予定を組んでしまうのです。

また、「悲観的に準備して、楽観的に達成する」これが私のモットーです。毎日がいろんな出会いと別れ、そして学びの連続です。まだ人生で大きな壁にぶつかったことがないので、その壁がどこにあるのか、模索しながら挑戦を続けています。

福祉業界の常識を変える—低賃金重労働からの脱却戦略

この業界は低賃金重労働というイメージがついています。人にしかできない仕事なのに、人が働きたがらないという矛盾が起きているのです。小学生の将来の夢ランキングにYouTuberが出てくる時代ですが、「おじいちゃん、おばあちゃんを助けられる人になりたい」という子がいてもいいはずです。でも、いないのです。

それは私たち業界が魅力的な発信をしていないからです。この業界にいる人も「この業界しかなかった」というマイナスのイメージから働き始める人が多いのが現実です。

法学部、経済学部、どんな学部を出ている人でも、「この業界で働きたい」と思える業界にしなければなりません。そのためには、お金の話をタブー視するのではなく、正当な対価を得られる業界にする必要があります。

日本の平均年収は450万円を超えましたが、中央値は350万台です。貧富の差が広がる中で、福祉業界の平均年収250~400万円。このボトムアップは重要な社会課題です。

福祉業界に革命を起こす—それが私の使命だと信じて、今日も前進し続けています。

株式会社Wingrin 
代表取締役 藤根羽矢人
事業所名:Color Sheeps
住所:〒300-1234 茨城県牛久市中央4-5-1
【HP】https://wingrin.jp/

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